表より入ってきたのは、70歳くらいの御隠居さん。
興頭巾をかぶり、和紙を貼り合わせた袖無し羽織を羽織っている。
側に寄り添っているのは、丁稚さんかな?
年の頃、12、3歳くらいといった感じで、御隠居さんの浴衣を大事そうに抱えています。
御隠居さんの付き添い、ご苦労さん。(^-^)
原文
番頭「これは御隠居さん。お早うございます。」
隠居「番頭殿。だいぶ寒くなってきたのぅ。」
番頭「はい。寒さを感じるようになりましたね。」
隠居「感じる程度ではないわ。」
さっきの二人も寒い寒いって言っていたから、よっぽど今朝は寒かったようだね。
隠居「コレ鶴吉。履物をちゃんとしておきなさい。」
と丁稚さんに言いつけて、上に上がります。
この御隠居さん、耳に数珠を挟んでいるんだよね。
そういう習慣があったのかも?
鼻紙の中にしまい込みます。
原文
隠居「昨夜は眠れずに困ったわ。」
何かあったのかな?
隠居「夜中に犬が吠えて吠えてうるさくてのぅ。あんなに吠えた夜は初めてじゃ。」
犬も寒さのあまりに吠えていたのかも。
だとしたら、よっぽど寒かったのかもしれないね。
隠居「しかたないので起きた。布団の上で煙草をプカプカとやっておったのじゃが……ますます眠れん。」
そりゃそーです。(^^;:
隠居「とはいえやる事がない。仕方ないから家の中の見回りに行ってきたわ。まぁ特に異常はなかったわけじゃが……わしが見回りしているにもかかわらず、誰一人気付くものがおらん!!まったく最近の若いモンときたら。万が一の時、あれで大丈夫なんじゃろうか?」
御隠居さんがピンピンしている内は、お家の方は大丈夫!(゚Д゚)b
原文
隠居「お、これはこれはぴん助殿。今朝は早かったのぅ。」
ぴん助「御隠居さんお早う。」
御隠居さんの知り合いみたい。
銭湯って町内にあるものだから、こんな風に知り合いと顔を合わせる機会も多いわけ。
まぁ言ってみれば、サロンみたいなものなんだよね。
ぴん助「昨夜は地震がありましたね~。あれは何時ぐらいでしたっけ?」
隠居「あれから七つの鐘がなったから、八つ半くらいじゃな。」
江戸時代の時刻は九つ(真夜中)から八つ、七つ、六つ……と数えていきます。
1つの時刻は、約2時間間隔。
八つは約午前2時頃。
七つは約午前4時頃。
八つ半だから、ちょうどその半分くらいということで、午前3時頃に地震があったようです。
とすると……午前3時に目が覚めない!って言われしまった若いモン衆がちょっと可哀想かも。(^^;
原文
隠居「『九は病、五七は雨に、四つひでり』じゃな。」
語呂がいいですね。それは何かの歌ですか?
ぴん助「さすれば『七つ金とぞ、五水りょうあれ』ですね。」
「御推量あれ」って言っているのかな?
隠居「イヤイヤ、『六八ならば、風としるべし』じゃぞ。」
ぴん助「あれ?そうでしたっけ?魂の歌と間違えましたよ。」
「魂の歌」という歌も気になります。
どういう歌なんだろう。
ぴん助「風邪とあるだけに、風邪をひいたような気持ちになるわけですな。」
隠居「いやいや、かぜはかぜでも吹く風の事じゃ。」
ぴん助「あらら、ま~た間違えました。九は病というから、てっきり六八で風邪をひくのだろうと思ってましたよ。」
すいません、私はもっとワカリマセン。(つД`)
江戸の歌は難しいぜ……。
ぴん助「お危のうございます~。」
と声をかけて、二人とも柘榴口の中に入っていきました。
原文